まず前年度までに行ってきた、分数量子ホール効果のエッジ状態で作成された量子ドットの動的抵抗の研究を継続して行い、特に量子ドットのゲート電圧に環境ノイズが加わった場合について考察を行った。その結果、環境ノイズの影響によっても量子相転移が生じることを明らかにし、その相図の概要を求めた。また同じく分数量子ホール効果で作成された量子ポイントコンタクトのショットノイズについて、有限温度でのショットノイズの定式化拡張を行い、有効電荷の温度・バイアス依存性を詳細に議論した。この有限温度のショットノイズ特性から、分数電荷励起の統計性についての情報が得られることも指摘した。 動的抵抗および非平衡ショットノイズの研究に一定のめどがたったことから、次の目標として量子ドットからの単一電子注入に着目した。当初は数値計算手法によるアプローチを計画していたが、量子光学で用いられている手法が有効ではないかと考え、量子光学分野の理論家(越野和樹氏)と共同研究を立ち上げることとした。手始めとして、光学キャビティ・量子ドット複合系で、量子ドットの励起状態からの単一光子生成のプロセスに着目した。これまでほとんど取り扱われてこなかった環境によるデコヒーレンスの効果を有効ボゾン模型で記述し、2粒子干渉プロセスで重要となる生成光子の純粋度をはじめて評価した。また得られた結果は、量子ゼノ効果・量子反ゼノ効果としても理解できることを示した。平成23年度では、この手法を量子ドット・量子ホール効果エッジ状態の複合系へ拡張する予定である。
|