平成22年度に引き続き、量子ドットにおける単一光子生成の理論研究を行った。発光スペクトルの時間依存性などを考察し、前年度の成果とともに論文にまとめた(投稿中)。さらに、ここで培われた理論手法を量子ドット-エッジ状態複合系に適用し、単一電子生成のダイナミクスの考察に着手した。ケルディッシュグリーン関数の手法を用いて、量子ドットとエッジ状態間のクーロン相互作用の影響をはじめて考察し、フェルミ面に由来する特異性(フェルミ端効果)が生成された電子に及ぼす影響を摂動計算によって評価した。その結果、生成された電子のスペクトルは、通常のローレンツ型と大きく異なり、非対称な形状をもつほか、フェルミ面近傍に新たなピーク構造が得られることを示した。また、二粒子干渉で重要となる生成電子の純粋度をはじめて評価し、現実的なクーロン相互作用のもとでは電子の純粋度は影響をうけるものの、純粋度を数十パーセント程度下げる効果にとどまることを示した。この成果(論文準備中)は、量子ドットでのダイナミクスを考察する礎となると考える。 平成23年度では、ナノスケール素子の動的特性に関して、さらなる研究の発展も模索する目的で、(1)近藤状態にある縮退量子ドット系の完全係数統計、および(2)p波超伝導接合の電流電圧特性についても研究を行った。前者においては、弱相関領域から強相関領域までをカバーする摂動繰り込み群の計算を行い、異なる軌道間の電流相関について理論的評価を行った。後者においては、カイラルp波超伝導が発現していると期待されるルテニウム酸化物で、weak-link型のジョセフソン接合の特性を調べる目的で、リング形状のサンプルの外部磁場依存性を調べた。
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