研究概要 |
擬一次元ハロゲン架橋金属錯体(MX、MMX鎖)に対して電子スピン共鳴(ESR)法を適用し、電子状態の競合を観測した。MMX鎖としては、カリウムとアルキルジアンモニウム誘導体の2種類の対カチオンを持つ、白金とヨウ素の二元系MMX錯体(K2NC3N, K2Me-NC3N, K2Cl-NC3N)を対象とし、結晶水の脱離に伴うESR信号の明瞭な変化を観測した。結晶水吸着状態(as grown)においては、ESR信号形は温度依存性が小さく、スピン磁化率はCurie則でよく説明された(Curieスピン濃度<0.1%)。この振舞いは、X線やラマン散乱の結果から予想される非磁性的な電荷密度波相(CDW)または交互電荷分極相(ACP)の振舞いと一致している。一方、結晶水脱離状態ではスピン磁化率は温度と共に熱活性的な増大を示し、ESR線幅は高温側で温度と共に上昇した。この結果は、常磁性的な平均原子価(AV)相を形成する他のMMX錯体と同様な振舞いであり、本系では結晶水脱離に伴う一次元鎖の収縮により、非磁性のCDW中に常磁性的なAV相が熱励起されることが示唆された。 一方、MX錯体としては、CDW相を基底状態に持つPd錯体と、常磁性的なモット・ハバード相を持つNi錯体の混晶系[Ni_<1-x>Pd_x(bn)_2Br_3](bn=ブタンジアミン)における電子状態の競合を調べた。この系は、過去に報告されているシクロヘキサンジアミン配位子(chxn)を用いた混晶系に比べ鎖間相互作用が強く、Pd錯体においてはCDWが3次元秩序を持つ。ESR測定の結果、PdにNiを混合するとCDW相が消失し、Pdによるモットハバード相(Pd^<3+>)が形成されることが、スピン磁化率の増加やg値の変化から明らかになった。この振舞いはchxn塩と定性的に一致する。他方、CDW相とモットハバード相の境界はbn塩ではchxn塩に比べてNi側にシフトしており、強い鎖間相互作用によりCDW相が安定化することが示唆された。 本研究ではさらに、MX,MMX錯体と同じハミルトニアンで記述され、密接な関係を持つ導電性高分子における電界注入キャリアや光キャリアのESR研究を進め、立体規則性高分子/可溶性フラーレン複合体における新規な4分子再結合過程や、側鎖の構造に依存した分子配向性の違いの観測に成功した。
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