研究概要 |
前年度に引き続き、カリウムとプロピルジアンモニウム誘導体の2種類の対カチオンを持つヨウ架橋複核白金錯体(MMX錯体)K_2[C_3H_5R(NH_3)_2][Pt_2(pop)_4I]・4H_2O(R:H, CH_3,またはCl)を対象とし、結晶水の脱離に伴う電子状態の変化を研究した。対カチオンの異なる3種類の錯体において、結晶水吸着状態と脱水状態でESR信号に明瞭な変化が観測された。脱水前は、スピン磁化率はCurie則でよく表され、X線構造解析やラマン散乱の結果から予想される非磁性的な電子状態とよく一致した。一方、脱水後の基底状態は非磁性の電荷密度波(CDW)相であることがわかっているが、80K以上でスピン磁化率の熱活性的な増大が観測され、同時にESR線幅がmotional narrowing効果を示した。ESR信号のg値から、スピンの起源はPt^<3+>(S=1/2)と帰属された。これらの結果から、2重縮退したCDW相において、運動を伴うスピンソリトン(Pt^<3+>)の生成が明らかになった。さらに、一軸性圧縮法を用いた電気伝導特性の圧力効果を測定した。R=Hの錯体は、常圧では脱水により伝導度が5~10倍上昇し、脱水状態では室温で約3×10^<-3>S/cmの伝導度を示した。一方、2GPaまでの圧力印加により、脱水前は伝導度が約2桁上昇したが、脱水後は約1桁の上昇に留まり、活性化エネルギーの圧力変化も脱水により小さくなった。このような振る舞いは、CDW相と平均原子価(モット・ハバード)相が競合するMX錯体でも報告されており、脱水状態では圧縮により電子状態が平均原子価相に近づくことが示唆された。 本研究ではさらに、MMX錯体と同等のハミルトニアンで記述され、密接な関係を持つ導電性高分子における電界注入キャリアや光キャリアのESR研究を行い、高分子/フラーレン複合体におけるキャリアの4分子再結合過程や、FET界面の電子状態の研究を進めた。
|