高密度の電子正孔系が見せる多様な量子物質相においては、粒子間相互作用がそのダイナミクスに重要な役割を担っている。相互作用の代表例として、オージェ再結合と呼ばれる無輻射崩壊を伴う多体衝突が挙げられる。本課題で扱う励起子のオージェ再結合とは、多体衝突によって一つの励起子が無輻射崩壊し、残りの励起子が崩壊のエネルギーを引き受けて高温のイオン化状態に移る過程を意味する。本課題では、広範な波長領域をカバーするレーザー分光法を駆使して、オージェ再結合に伴うキャリア発生と励起子の熱化過程のダイナミクスを実験的に追跡し、多体量子系の学理を深めることを目的としている。本年度は、オージェ再結合に伴うイオン化キャリアを可視光励起の下での自由キャリアによるマイクロ波の吸収として測定し、吸収信号の結晶方位角度依存性や温度依存性の詳細を実験的に得た。また、励起波長の連続掃引による"サイクロトロン共鳴の励起スペクトル"を測定し、励起子の共鳴的な生成とキャリア生成との間に明らかな相関があることを見出した。光励起パルスからの遅延時間を変えることによりキャリアの緩和に関する情報を得ることができ、サイクロトロン共鳴ピークの解析によってオージェ再結合により生じていると見られるキャリアの数密度を定量的に評価し、散乱時間の密度依存性から自由励起子の数密度を見積もることにも成功した。これはキャリアが関係する多体効果について新たな知見が得られた点で意義ある成果である。一方、パラ励起子の安定性に関しては、時間分解発光測定によって励起子寿命の温度依存性と不純物含有量依存性を詳しく調べた結果、自由励起子の寿命と欠陥発光の寿命に相補的な温度依存性があることを初めて見出し、レート方程式を用いて励起子の不純物への捕捉とイオン化の機構を議論した。今後のパラ励起子寿命の制御に向けて有効な道筋への手がかりが得られたといえる。
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