水素発生反応は電気化学において最も基礎的な反応として知られている。またこの反応は、近年エネルギー問題に関連して注目を集めている水素燃料電池とも密接に関連しており、工業的応用の観点からも重要な反応である。しかしながら、その反応の見た目の単純さに関わらず、反応の微視的機構はいまだ明らかにされていない。今後、より高効率の水素燃料電池触媒を開発するためには、水素発生における触媒金属や溶媒分子である水の役割を明らかにし、反応の微視的機構を解明することが重要である。そのため、本研究では最も基礎的な触媒である白金(111)表面上における(i)水素発生反応の素過程と(ii)反応ダイナミクスを第一原理分子動力学シミュレーションにより明らかにする。 本研究では研究期間を通じてブルームーンアンサンブル法を用いた分子動力学シミュレーションを実行し、水素発生反応において律速と考えられているTafel、およびHeyrovsky過程の微視的詳細を調べ、また反応障壁を計算した。中性条件におけるシミュレーションの結果、前者の反応障壁が後者のものよりも小さくなることが分かった。即ち、電圧を印加していない状態ではTafelが支配的であることが示唆される。今後、電圧印加下での反応素過程と反応障壁をより詳細に調べることで電極反応のより深い理解が得られると期待される。
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