1.励起子のイオン化率という概念に着目し、電子正孔系の熱平衡状態を、励起子形成による遮蔽効果の減少を加味した、自己無撞着T行列近似理論を構築した。これにより励起子モットクロスオーバと対応する光学応答の変化を非常に広いパラメータ領域のわたり、統一的に議論できるようになった。この枠組を用いて、これまで理論的には決着がついていなかった、一次元電子正孔系の実験結果を解明した。 2.電子と正孔の密度がアンバランスな二次元電子正孔系において、極低温で実現される量子凝縮相(Fulde-Ferrel-Larkin-Ovchinnikov)状態について調べ、クーロン相互作用の長距離性がこの相を著しく安定化することを示した。 3.カーボンナノチューブ上の励起子分子と荷電励起子を考察し、既存の理論が無視してきたバンド非放物線性、構造因子、遮蔽効果、自己エネルギー補正の効果を調べた。その結果、構造因子と遮蔽効果による相互作用の補正が、これらの束縛エネルギーを著しく減少させることを明らかにした。また、準位の微細構造についても調べ、最近測定された荷電励起子の束縛エネルギーを半定量的に説明することに成功した。 4.一般の二次元格子上で、ディラック点が出現する条件を提示し、物質設計に対する指針を与えた。 5.単層および二層グラフェン上のサイクロトロン共鳴において現れる多体効果について調べた。通常の二次元系ではKohnの定理によって多体効果が強く抑えられるが、この系では非放物線性があるために多体効果が現れると予想される。しかし、N=0から±1のランダウ準位間遷移では、線幅に多体効果が殆ど現れないことを見出した。
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