電子正孔系を考察する際に伝統的に用いられてきた半導体Bloch方程式を,低次元電子正孔系に適用した結果について考察した.相互作用が繰り込まれた準電子と準正孔の間の束縛状態がなくなる密度をMott密度と定め,プラズマ利得が生じる密度,即ち相互作用が繰り込まれたバンド端と電子と正孔の化学ポテンシャルの和が一致する密度を透明密度と定義する.バルク(三次元)系では,Mott密度と透明密度は全く異なる.前者が主に遮蔽効果によって決まるのに対し,後者は殆ど相互作用によらず,Pauliブロッキングの効果のみで決まるからである.しかし,低次元系では遮蔽効果はPauliブロッキングに比べると小さな影響しか及ぼさないことが分かった.実際,低次元ではどんなに小さい引力でも必ず束縛状態が形成され,遮蔽効果のみでは励起子の乖離は起こらない.その結果,低次元電子正孔系では,Mott密度と透明密度が一致する.我々はこの考察をさらに進め,両密度が簡単な表式で近似できることを見出した.この条件式は古典量子クロスオーバーの境目を表す形をしていて,Pauliブロッキング効果が顕在化する条件を示す. さらに、半導体Bloch方程式を超えて自己無撞着T行列近似を開発した.この理論では,電子正孔間のT 行列を通じて電子と正孔の自己エネルギーや一粒子グリーン関数に励起子束縛状態の情報が入り,イオン化率を考察することが可能となる.このイオン化率の情報は相互作用の遮蔽定数にフィードバックされるようになっており,これにより励起子形成による遮蔽効果抑制の効果も考慮できる.これは非摂動的な効果であるため,イオン化率が不連続に跳ぶ「純粋なMott転移」までも記述可能である.実際に擬一次元と二次元系の相図を,イオン化率を使って可視化した.
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