本研究の目的は、立方晶にも拘らず四回対称軸を有しない結晶構造を持つ希土類パラジウムブロンズRPd_3S_4(R : 希土類)、及びそのRサイトを多極子自由度を持たないGdで置換したR_<1-x>Gd_xPd_3S_4に注目し、各種物性測定からRPd_3S_4の多極子物性を明らかにすることである。平成21年度に得られた成果は以下の通りである。 1. TbPd_3S_4の単結晶試料の磁化と比熱測定から、磁場8Tまでの磁場-温度相図を作成した。0.5T以下で現れる反強磁性秩序相への転移は一次相転移的である。このことは、0.5T以下の相への相転移で、反強磁性秩序と同時に何らかの多極子秩序が生じたことを示唆する。0.5T以上の磁場を印加すると、反強磁性秩序相とは異なる相が誘起されることを見出した。磁場誘起相の秩序状態と秩序変数を微視的に調べるため、磁場中粉末中性子回折実験により磁気構造を調べたところ、0.5T以上では傾角反強磁性構造となることが分かった。このことより、磁場誘起秩序相は反強四極子秩序相であると判断された。 2. TbPd_3S_4の0.5T以下で見られる反強磁性相が、反強磁性秩序と多極子秩序との共存相であることを検証するため、磁気相互作用を強め多極子相互作用を弱めたTb_<1-x>Gd_xPd_3S_4を作製し、両秩序の分離を試みた。x=0.05の多結晶試料を用いた磁化測定からは秩序の分離は確認出来ず、転移温度の上昇が見られたのみであった。次年度にTb_<1-x>Gd_xPd_3S_4の単結晶化を行い、磁化と比熱測定による物性評価を行う。
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