本研究では短距離磁気相関を系統的に調べる手段を開発し、それを実際に興味深い電子物性を示す系へ適用することを目的とした。手段として注目したのは対相関関数を用いる手法であり、特に磁気成分に注目して解析を行うことが特徴である。その目的に必要なデータの規格化、補正に必要な予備データの測定を行い、得られたPDFを解析するのに必要なモデルフィッティングの機能を有する解析ソフトの開発を行った。実験データの取得は東北大金研のHERMESを用い、LiV_2O_4やY_2Ir_2O_7等の幾何学的フラストレーションが期待される系を中心に、低温は1Kから高温は500Kまでの広い温度範囲で高精度の弾性散乱データを取得することができた。予想されたことではあるが、磁気散漫散乱は非常に小さいことが分かり、更なる非弾性散乱実験の必要性が再確認された。現在この追加実験が進行中である。また関連する以下のテーマについても成果を得た。(1)電子物性を研究する手段として第一原理電子状態計算に着目し、それを用いてMgの長周期積層構造(LPSO)の生成要因について調べた。この系では10%程度の体積膨張により積層欠陥エネルギーが無視できるほど小さくなることを示し、格子欠陥導入によるLPSOの形成の可能性について計算結果に基づいた提案を行った。(2)対相関関数を用いて、金吸着能に優れたMn酸化物ナノ粒子の結晶構造を明らかにした。(3)準安定相を対象とした状態図計算の展開について次のような結果を得た。まずフォノン成分を含む比熱計算を準調和近似とデバイグリュナイゼンモデルに基づいて行い、B1構造の炭・窒化物で実験結果と非常によい一致を示すことを明らかにした。また固溶体の自由エネルギーを求める手法としてクラスター展開・変分法を試み、その有用性を確認することができた。
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