申請者が提案している、有機導体における電荷秩序-超伝導相図において、二つの相の間に存在する電荷揺らぎ相の電気的性質について、交流インピーダンス測定を行った。 初年度は、LCRメーターを用いた測定において、測定ケーブルの延長と温度変化に対する正確な補正法を確立し、室温から1.5Kまで、20Hzから30MHzまでの精密交流インピーダンスを行うことを可能にした。 この測定手法を用いて、圧力誘起有機導体β"-(DODHT)_2PF_6の電荷揺らぎ相の測定を行った。この結果、電荷揺らぎ相内では電気抵抗の抵抗上昇が見られるが、抵抗の上昇が生じても変位電流成分が増大しないため、抵抗上昇は、電荷秩序揺らぎに依るものであり、電荷ギャップが開くためではないことを明らかにした。この事実は、この系で起きている超伝導が電荷揺らぎ機構によるものであることを強く示唆している。 更に、一軸性圧縮下のθ型有機導体の抵抗異常が生じるところで、交流インピーダンスも特異な振る舞いを示すことも見出した。得られた結果は、この抵抗異常温度以下の電子相が、理論側から電荷秩序相の近傍で実現する可能性が指摘されている、電荷秩序金属相である可能性が高いことを示しており、次年度は、構造的な観点からの研究も進める。 また、研究対象の一つとなっていた物質(α-(BEDT-TTF)_2I_3)の新たな電子状態が実現している可能性があるという報告が名古屋大学の小林らにより提案されたため(J. Phys. Soc. Jpn. 78(2009)114711.)、繰越をして研究を進め、交流インピーダンス測定を行ったが、彼らの主張する電子状態の実現可能性については、否定的な結果が得られた。
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