幾何学的にフラストレートした反強磁性体は、スピンダイマー系などと同様に磁化曲線に磁化プラトーの現れる舞台であり、実際に三角格子磁性体では多くの物質において磁化プラトーが発見されている。一方、カゴメ格子磁性体においても磁化プラトーが現れることが理論的に指摘されているが、実験的には観測されていない。 平成22年度に、スピン1/2カゴメ格子反強磁性体の候補物質であるvolborthite Cu3V2O7(OH)2 2H2Oとvesignieite BaCu3V2O8(OH)2のパルス強磁場下における磁化測定を行った。その結果、これらの物質において磁化プラトーに対応すると考えられる磁化の飽和傾向を発見した。volborthiteは60T以上、vesignieiteは55T以上の磁場において磁化プラトーを形成する。興味深いのは、これらの磁化プラトーの磁化が共に飽和磁化の40%に生じる点である。これは理論的に指摘されている飽和磁化の1/3よりも20%程度大きい。この磁化の差は、volborthiteにおいて観測された磁化ステップ現象と共通の起源をもち、何らかのカゴメ格子反強磁性体に特有の機構に基づいている可能性がある。
|