研究概要 |
本研究の大きな目標の一つは,私たちのグループで発見したS=1/2カゴメ格子反強磁性体であるRb_2Cu_3SnF_<12>の大型単結晶を作成し,基底状態の性質と励起スペクトルを調べることである.これまでに,磁気測定により磁気的相互作用の詳細を求めていた.今年度は結晶育成条件の探求を行った結果1~2gの大型の単結晶試料の育成に成功した.これは,S=1/2カゴメ格子反強磁性体の実現物質では世界的にも初めてのことである.そして,得られた試料を用いた中性子散乱実験による磁気励起の測定を重点的に行った.その結果,この物質の基底状態はpinwheei型VBSと呼ばれる結晶構造の歪みを反映したものであることがわかった.また,理論的に予測されていたものより,大きな磁気分散が観測され,非磁性な基底状態から磁気的な状態への励起ギャップの大きさも予測された値の5分の1程度であった.この結果はDzyaloshinsky-Moriya相互作用が,最近接相互作用の15%程度と大きいことによりもたらされるものである,ということが理論研究者との共同研究により明らかにすることが出来た.これまでS=1/2カゴメ格子反強磁性体の基底状態と励起状態は強い幾何学的フラストレーションと量子揺らぎの為に,従来の磁性体には見られない大変エキゾチックなものである事が理論的に予言されているものの,統一的な見解は現在のところまだ存在せず,謎に包まれている.また純良な単結晶が得られる物質が発見されていなかったため,実験的な研究はあまり進んでいなかった.この研究は,S=1/2カゴメ格子反強磁性体の基底状態と励起スペクトルの詳細に踏み込んだ初めての例となる.本成果は現在Nature Physicsに投稿中である.
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