研究概要 |
21年度後半から22年度にかけて,本研究で作成したS=1/2籠目格子反強磁性体のRb_2Cu_3SnF_<12>について,単結晶を用いた中性子散乱による磁気励起の測定を行った.その結果,この物質の基底状態がPinwheel(風車)型VBS状態と呼ばれる非磁性な基底状態をとっていることが,実験的に分かった.この状態は,格子歪みにより安定化されたものであるが,歪みのない理想的なカゴメ格子から,少し歪んだ(ある相互作用を他の相互作用に比べて3%弱くした場合)だけで現れる状態であることが,理論的研究から明らかになっている.そのため,観測された基底状態は,理想的な籠目格子反強磁性体で実現される状態と非常にエネルギー的に近いものであると考えられる.この研究は,スピン量子数がS=1/2と小さい籠目格子反強磁性体では,初めて単結晶で行われたものであり,発見された基底状態も量子力学的な効果が強く現れた状態であったため,高く評価された.その結果,Nature Physics誌への掲載が認められた. また,22年度からは,もう一つのS=1/2籠目格子反強磁性体のCs_2Cu_3SnF_<12>について中性子散乱による,磁気構造の決定とスピン波励起の観測を行った.その結果,磁気構造は隣り合うスピンが120度をなしていることが確認できた.また,スピン波の励起は,スピン間の相互作用の一つであるジャロシンスキー・守谷相互作用を考慮することにより,実験結果を定性的に再現できることが分かった.現在,出版に向けて論文を準備している.
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