本研究は、熱伝導率による重い電子系超伝導体におけるマルチギャップ効果の解明を目的としている。本年度は、Yb元素を含むはじめての重い電子系超伝導体として知られ、またゼロ磁場・常圧下において量子臨界点近傍に位置するため注目されているβ-YbAlB_4および鉄元素を含む超伝導体Lu_2Fe_3Si_5の熱伝導率測定を行った。β-YbAlB_4は量子臨界点近傍に位置するため、通常の金属とは異なる非フェルミ液体的振る舞いを示し、さらに低温下において超伝導状態に転移する。このことから量子臨界点の存在と重い電子超伝導状態の発現には何らかの相関が示唆されるため、量子臨界点を理解することが未だ明らかにされていない重い電子超伝導の発現機構の解明の糸口になると期待される。そこで本研究では、β-YbAlB_4の熱伝導率を希釈冷凍機を用いて極低温まで測定し、量子臨界点近傍において異常な熱輸送特性を見出した。通常、金属では熱伝導率は低温極限においてヴィーデマン・フランツ則に従うことが知られているが、β-YbAlB_4においてはこの法則からの顕著なずれが量子臨界点の近傍においてのみ観測された。これは量子臨界点特有の異常な電子状態を反映しているものと理解される。鉄元素を含む超伝導Lu_2Fe_3Si_5については、d電子が深く関係したマルチギャップ超伝導を反映した、非常に顕著に増強された熱伝導率を混合状態において見出した。この成果はPhysical Review Letters誌に掲載された。
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