研究課題
本研究では、鉄系高温超伝導体の発現機構解明を目指し、エピタキシャル薄膜の作製と、これと相補する純良単結晶試料の育成、並びにこれらを基盤とした精密物性測定を行った。特に、等原子価置換により超伝導が発現する鉄系超伝導体BaFe_2(As_<1-x>P_x)_2の純良単結晶育成に成功し、系統的輸送現象の測定や磁気量子振動の観測、核磁気共鳴測定等により、超伝導転移温度が最も高くなる最適置換近傍において、非フェルミ液体的な輸送現象や強い多体相互作用の存在を示し、量子臨界点的な揺らぎが超伝導と密接に関連していることを示した。一方、本物質の超伝導状態について、磁場侵入長、熱伝導度等の準粒子敏感な測定から、超伝導ギャップ関数がラインノード構造を持ち、鉄系高温超伝導体の超伝導ギャップ構造が非ユニバーサルであることを示した。これらの結果は、鉄系超伝導体の超伝導発現機構が非従来型であることを強く示唆する重要な結果である。又、類縁物質であるCaFe_2(As_<1-x>P_x)_2の単結晶作製に成功し、この系に固有の格子コラプス転移の存在を明らかにするとともに、格子コラプス転移を挟んだ系統的輸送現象測定から、非フェルミ液体的な電子輸送現象と超伝導の強い相関を明らかにした。エピタキシャル薄膜においては、本研究によってラインノード構造を持つことが明らかになったBaFe_2(As_<1-x>P_x)_2について、今後、超伝導接合の作製を行うことにより、鉄系の超伝導体の対称性に関するより詳細な議論が可能になると期待される。
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