研究概要 |
本年度はβ-パイロクロア酸化物AOs_2O_6 (A=K, Rb, Cs)におけるゲスト原子Aの大振幅振動の振る舞いについて明らかにするために、以下のとおり実施した。 まず、RbOs_2O_6並びにCsOs_2O_6のラマンスペクトルを4Kから室温までの温度範囲で測定した。これにより、以前に行ったKOs_2O_6の結果と合わせて、ゲスト原子としてK、Rh、Csと3種類のアルカリ金属イオンに対して振動エネルギーの詳細な温度変化を得ることができた。本年度の研究ではCsでのエネルギー変化が小さいため、分光器を可分散モードで用いてより高精度で振動エネルギーを決定している。その結果、測定した温度範囲でいずれのエネルギーも温度に比例して変化することを明らかにした。これは非常に特異な結果であり、極低エネルギーにゲスト原子振動と結合した揺らぎが存在することを示唆している。 次に、これら測定結果と、これまでに報告された中性子非弾性散乱の結果を合わせて原子間相互作用を見積もり、調和項と非調和項に分けて解析した。この見積もりのためにはラマン散乱実験によるゲスト原子振動の帰属が不可欠である。現在のところゲスト原子振動の分散関係は分かっていないため詳細な解析はできないものの、ラマン散乱と中性子散乱の実験結果をともに満足する相互作用を見積もった。その結果、3つのβ-パイロクロア酸化物で系統的な結果が得られ、特にKOs_2O_6では調和項が非常に小さく、振動エネルギーが非調和項で決定されていることを見いだした。これまでこの系では非調和項が重要であることが言われてきた。本研究により、KOs_2O_6においてゲスト原子振動は実際に非調和相互作用に支配されていることを、初めて実験から実証することができた。
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