酸素分子の高圧力下における物性は、過去に、構造解析実験・ラマン測定・中性子回折実験・電気抵抗測定によって、1メガバールまでに及ぶ圧力領域で調べられてきた。しかし、磁化率測定・磁化測定といったスタンダードな磁気測定では、0.8GPaまでの領域での実験報告があるのみである。本研究は、そのスタンダードな磁気測定によって、酸素分子の高圧力下における磁性を探索することを目的とする。しかし、そこに新しい実験手法を取り込む。具体的には、ナノサイズ細孔をもつ構造体に酸素分子を吸着させ、一つの吸着装置として用いながら、同時にその空間自由度を制限することである。さらに、そこに高圧力を印加し、吸着構造体の細孔サイズごと減少させ、酸素分子間の距離および隣接分子数を変化させる。この方法によって、ナノサイズ効果も同時に探索しようとするものである。本研究の産業応用面での意義は皆無かもしれないが、240年前に発見された酸素分子が、今日でも人間生活を営む上で最も馴染みのある磁性体の一つであることから、自然科学的な意義は大きいと考える。 平成21年度では、吸着能力の高いメソ多孔質シリカSBAを酸素分子の吸着構造体として利用し、さらにそれに、ピストンシリンダー型高圧力発生装置を用いて高圧力を印加することによって、バルク酸素分子の高圧力下における気相-液相-固相転移を追跡した。圧力発生限界は1.6GPaであるが、過去のMeierらの0.8GPaまでの結果とつながりを見せる結果が得られた。しかし、酸素封入条件によって、実験結果にばらつきがり、再現性の良い結果にはなっていない。そこで、酸素をより効果的に封入するための加圧装置付酸素封入装置を製作した。平成22年度は、この新たな酸素封入方法に、ダイヤモンドアンビルセルによる高圧力発生技術を融合させ、より高圧力下における高精度磁気測定を実現する。
|