研究概要 |
第一原理バンド計算からハーフメタルであると期待されるホイスラー合金Ru_<2-x>Fe_xCrSiとCo_<2-x>Fe_xMnSiをアーク熔解法により合成し,L2_1構造であることを明らかにした。磁化や電気抵抗,比熱の測定から,Ru基ホイスラー合金についてはFe-richの化合物が,また,Co基ホイスラー合金についてはx≦1.5の化合物が強磁性ハーフメタルである可能性を見出した。そこで,ホイスラー合金/超伝導体接合を用いたアンドレーエフ反射法によりスピン分極率を測定したところ,Co基ホイスラー合金では全ての組成xで約50%のスピン分極率を得た。一方,Ru基ホイスラー合金でも組成xの広い範囲で53%~55%のスピン分極率であったが,x=1.8の化合物はスピン分極率65%の高スピン分極率材料であることを明らかにした。また,MgO基板上にフルエピタキシャル成長させたNbN/Co_2MnSi構造の多層膜の作製に取り組んだ。その多層膜の特性としてNbNの超伝導転移温度T_c=16.0KとCo_2MnSiの飽和磁化M=800emu/ccという値から,NbNとCo_2MnSiの多層膜化の工程でNbNの超伝導性とCo_2MnSiの強磁性ともに劣化しないフルエピタキシャル多層膜の成膜条件を見出した。そこで,電子ビーム描画装置を用いて40μm×40μm~400μm×40μmのナノ接合の作製を試み,ナノ接合の作製条件を確立した。次いで,アンドレーエフ反射法により微分コンダクタンスの測定を行った。 以上のことから,新規ホイスラー合金の高スピン分極率材料の合成およびフルエピタキシャル成長させたナノ接合の作製技術と特性評価に成功した。特に,フルエピタキシャル成長させたホイスラー合金/超伝導体構造のナノ接合はこれまでに報告例がなく,ナノ接合の作製技術を確立できたことは,今後の超伝導体接合のスピントロニクスへの応用・発展に重要な成果である。ただし,現状では奇周波数クーパー対の明確な根拠となる実験データは得られていない。
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