研究概要 |
パイロクロア酸化物Tb_2Ti_2O_7は、θ_<CW>~-14Kのキュリーワイス温度を持つにも関わらず20mKまで長距離秩序を示さず、スピン液体状態を実現していると考えられているが、詳細な基底状態はまだ理解されていない。最近、この物質の基底状態は、結晶場第一励起状態の混成によって古典的なスピンアイス配置状態が量子力学的に重ね合わさった状態で表現される、量子スピンアイス状態であるという理論的な提案がなされた。もしこのような新奇量子状態が実現しているのであれば、スピンアイス同様異方的な磁化が観測されるはずであるが、これまでの実験では5Kで磁気異方性がないことが確認されているのみである。しかし、これまでの実験で明らかにされている第一励起状態のエネルギーギャップ(18K)、最近接相互作用(J_<nn>~-0.88K,D_<nn>~0.8K)の大きさを考慮するとより低温での測定が必要である。 本年度は、量子スピンアイス状態の真偽を解明するため、この結晶構造に特徴的な[100],[110],[111]方向の100mK,5Tまでの極低温磁化をファラデー法を用いた磁化測定装置により測定した。その結果、4.2Kにおいて磁気異方性の存在を確認し、この系においてイジング異方性が存在していることを明らかにした。さらに、0.1Kの[111]方向の磁化曲線においてスピンアイス物質と同様なカゴメプラトーを示唆する異常が存在することを発見し、最近接のスピン相関が、フラストレーション系ではあまり考慮されてこなかった量子効果により、キュリーワイス則から予想される反強磁性的なものから強磁性的に変化していることを見いだした。これらの結果より、基底状態においてほぼ間違いなく量子スピンアイス状態が実現していることを確認した。
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