研究概要 |
パイロクロア酸化物Tb_2Ti_2O_7は、θ_<cw>~-14Kのキュリーワイス温度を持つにも関わらず20mKまで長距離秩序を示さず、スピン液体状態を実現していると考えられているが、詳細な基底状態はまだ理解されていない。最近、この物質の基底状態は、結晶場第一励起状態の混成によって古典的なスピンアイス配置状態が量子力学的に重ね合わさった状態で表現される、量子スピンアイス状態であるという理論的な提案がなされた。昨年度の我々の極低温磁化測定実験より本研究物質においてもスピンアイス同様異方的な磁化を観測し、幾何学的フラストレーションを示唆する磁気プラトーが存在することを確認した。それより、ほぼ間違いなく量子スピンアイス状態が実現していることを明らかにしたが、その描像では一見説明できない異常がまだ存在する。本年度は、[100],[110],[111]方向の極低温磁場中比熱測定を行い、量子スピンアイス状態の詳細の研究を行った。その結果、通常のスピンアイスと類似した磁気温度相図を示すことを見出し、未解明であった異常が量子スピンアイス状態への相転移である可能性を示唆する実験結果を得た。 また、それ以外に、カゴ状構造と幾何学的フラストレート構造が共存する系RT_2Al_<20>の系に注目し、R=La,Pr,Sm,Ybの化合物の純良単結晶育成に成功した。その中の一つのPrNb_2Al_<20>において非磁性基底状態を持つにもかかわらず重い電子状態を示すことを発見し、強相関電子系の物性研究の一つのトピックである四極子近藤効果が高密度系で実現している可能性を示唆する実験結果を得た。
|