研究概要 |
液体ヘリウム4(^4He)は非常に量子性の強い物質であり,極低温において超流動を示すことが良く知られている.このような強い量子性は固体^4Heでも観測され,しばしば量子固体と呼ばれる.1969年,その強い量子性のため固体^4Heに零点空格子が生成し,それが極低温でBose凝縮(BEC)を起こすという『固体の超流動』の可能性が理論的に指摘されたが,これまで実験的には観測されてこなかった.2004年に初めて固体の超流動の存在を強く示唆する実験結果が報告されたが,その後の研究から,この現象は零点空格子のBECではなく,固体^4He結晶の格子欠陥等に起因するものと解釈されている.一方2005年,グラファイト表面上の2次元^3He固体において,ある特定の面密度(17-19atoms/nm^2)で零点空格子の運動に起因する特異な量子相が発見された.同様の系を^4Heで構築することでこの零点空格子がBECを起こし2次元^4He固体において固体の超流動が実現すると期待される.これまでねじれ振り子法を用いた測定で,2次元^4He固体においても固体の超流動に起因すると考えられる有限の非古典的回転慣性(NCRI)を観測した.本研究では,NCRIの面密度依存性,NCRIの振動速度依存性の測定からグラファイト表面上の2次元^4He薄膜の相図を作成し,2次元Bose粒子系における固体の超流動について調べることを目的とした.ねじれ振子法による^4He薄膜の非古典的回転慢性(Non-Classical Rotational Inertia;NCRI)の測定から,面密度18-19atoms/nm^2,及び20atoms/nm^2以上の2つ領域において有限のNCRIが観測された.この内,18-19atoms/nm^2の面密度領域においてのみ,バルク固体ヘリウム4における固体の超流動と同様なNCRIの振動速度依存性が観測され,それぞれの領域におけるNCRIの起源が異なることを示している.過去に行われた量子モンテカルロシミュレーションでは16atoms/nm^2付近で超流動相が出現するが,これは本研究結果と一致しない.ねじれ振子法による結果をもとに,グラファイト表面の^4He薄膜の新しい相図を提案した.
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