研究概要 |
本研究課題は、鉄族金属間化合物における超伝導ギャップ対称性の研究、新奇な量子化磁束状態の研究、および新奇な強相関電子物性の探索を行うものである。平成22年度の研究実績は以下の通りである。 鉄珪化物Lu_2Fe_3Si_5について、超伝導ギャップ対称性の研究を行った。Lu_2Fe_3Si_5はFeを含みながらT_c=6 Kという高い超伝導転移温度を示し、最近の研究からマルチギャップ超伝導の可能性が指摘されている。本研究ではLu_2Fe_3Si_5について、精密構造解析による結晶中の電荷密度分布マッピングを行い、Fe-Siネットワークを舞台に超伝導が発現していることを示唆する結果を得た。またLu_2Fe_3Si_5の極低温熱伝導率測定を行い、強い電子相関とマルチギャップ超伝導を示唆する知見を得些。以上の結果と前年度に行った不純物効果の研究結果を総合して、Lu_2Fe_3Si_5ではFe-Siの3次元的ネットワークを舞台に符合反転s波対称性超伝導が発現しているとの結論を得た。 ホウ炭化物YNi_2B_2Cについて、磁場中超音波音速測定による量子化磁束状態の研究を行った。YNi_2B_2Cは、超伝導ギャップおよびフェルミ面の異方性を反映し超伝導相内で多彩な量子化磁束格子構造をとる。本研究では、超音波測定により量子化磁束の弾性特性を調べるという新しい研究手法をYNi_2B_2Cに適用し、磁束格子の構造相転移に伴う弾性異常の検出に成功した。 擬一次元鎖炭化物YCoCについて、キャリア制御による新奇物性探索を行った。YCoCは、バンド計算から反強磁性スピン揺らぎと弱強磁性不安定性の競合が指摘されている興味深い物質であるが、これまでに詳細な物性研究は行われていない。本研究では、Y(Co_<1-x>M_x)C(M=Fe,Ni)の電気、磁気特性を調べ、Fe置換試料においてホールドープに伴う電子相関効果の増強と量子臨界性の発現を示唆する結果を得た。
|