研究概要 |
本研究課題では、平成21、22年度は鉄族化合物におけるエキゾチック超伝導の研究を遂行したが、最終年度の平成23年度は少し趣向を変えて鉄族スピネル酸化物における軌道自由度が絡んだ幾何学的フラストレーション効果の研究を重点的に行った。近年精力的に研究が行われている鉄砒素系高温超伝導体においては、エキゾチック超伝導の発現に軌道揺らぎが重要な役割を担っていると指摘されているが、軌道揺らぎはエキゾチック超伝導に限らず様々な新奇物性を創出することが期待できる。本研究課題の平成23年度は、軌道揺らぎが絡んだフラストレーション効果の探索を行うべく、軌道縮退系ゲルマニウムスピネルGeMT_2O_4(M=CO,Fe)に注目して研究を行った。以下に、平成23年度の本研究課題の研究実績を記す。 GeMT_2O_4は、ワイス温度がθw=+81Kと強磁性的でありながらT_N=21Kで反強磁性転移を示す。過去の研究からは、BサイトのCO_2+イオン間に強い軌道相関が働いているにもかかわらず軌道秩序転移できない、幾何学的軌道フラストレーションとよべる状況が生じている可能性が指摘されている。本研究では、GeMT_2O_4について純良単結晶を用いた非弾性中性子散乱実験を行い、常磁性相だけでなく反強磁性相においても新奇なフラストレーション効果であるスピン分子励起の観測に成功した。これは、反強磁性相においてフラストレーションが十分に解消されず残存していることを強く示唆するものである。また本研究では、GeMT_2O_4の反強磁性相での磁場中超音波音速測定を行い、スピン分子励起に由来する弾性異常、および磁場誘起軌道秩序転移を示唆する弾性異常の観測に成功した。この結果は、反強磁性相におけるフラストレーションの残存と、それに由来する軌道自由度が絡んだ新奇物性発現の可能性を強く示唆するものである。 GeFe_2O_4は、強磁性相関が支配的でありながら低温でスピングラス的な振舞いを示し、GeMT_2O_4とは異なる軌道縮退フラストレート系と期待される物質である。本研究では、混晶系Ge(Fe_<1-X>CO_X)_2O_4の単相多結晶作製と磁化測定を行い、Co置換量に依存しない特異なスピングラス的振舞いを確認した。これは、Ge(Fe_<1-X>CO_X)_2O_4のスピングラス相がフラストレーションの影響を強く受けていることを期待させる結果である。
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