研究概要 |
遷移金属酸化物や有機物などの強相関電子系において,ピコ秒スケールの多様な超高速光学応答が実験的に観測されていることに触発され,新規光デバイスなどを念頭に置きつつも,その背景となる電子状態を密度行列繰り込み群(DMRG)による大規模数値計算により詳細に解析することが本研究の目的である.平成22年度特に取り組んだ研究項目及び成果として論文が公表された研究項目としては,1.光照射によるスピン状態転移の研究,2.量子エンタングルメント理論に基づいたDMRGの高次元化を念頭に置いた新手法の開発,3,二次元強相関電子系の光照射に関するドミノ効果の研究,が挙げられる. 項目1に関しては,多軌道強相関模型において光誘起後の過渡スペクトルを計算することにより,スピン状態転移に特徴的なピーク構造が現れることを見出し,論文として公表した.光による磁性の高速制御は興味を持たれている分野であり,これに関する知見が得られたことは意義があると考えられる. 項目2に関しては,過去の研究成果を踏まえて解説記事を日本物理学会誌に寄稿した.その後,エンタングルメントの理論に基づいたテンソル積変分の理論は,素粒子の超弦理論におけるAdS/CFT対応や画像処理など他分野との深い繋がりがあることを発見し,それらの知見も総合してDMRGの高次元化と光物性への応用の具体的方向性が見えてきた.その研究を現在進行中である. 項目3に関しては,光照射で二次元電荷秩序状態から金属へ相変化を起こす際の励起密度を調べた.項目2の成果を生かした大規模計算を行う前の予備計算であるが,相境界から離れた系への励起は相転移効率を著しく弱めることが分かった.光制御可能な条件の理解に必要な結果と考えられる.
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