研究概要 |
本年度は、単一成分分子性導体M(tmdt)2(M=Ni,Au,Cu)のフラグメント化による有効モデルと基底状態相図についての理論的研究を行った。以前行ったM=Ni, Auの系に対する3軌道モデル[H. Seo et al., J.Phys.Soc.Jpn.77(2007)023714]を拡張し、3つの化合物に対して共通な4軌道モデル:配位子のTTF骨格上の二つのpπ軌道、中心金属周りのpdπ軌道およびpdσ軌道を基底関数と仮定した強束縛モデルを構築した。第一原理計算によるバンド構造に対して数値フィッティングにより得られた軌道エネルギーパラメータは、系統的な電子状態変化を示し、特に新しく解析したCu系でのpπ軌道とpdσ軌道の擬エネルギー縮退がみられた。一方で、軌道間の遷移積分は、以前の3軌道モデルの場合と同様に、すべての物質に対してほぼ同様の結果が得られ、このように分子軌道を「フラグメント化」したモデルの妥当性を示唆している。 得られた4軌道モデルのうち、実験的に磁性がみられるAuおよびCu系に対して、オンサイトの相互作用を考慮した多軌道ハバードモデルを考慮し平均場近似によって基底状態を解析した。Au系では3軌道モデルでの計算と同様配位子上にモーメントを持った反強磁性状態が得られるのに対し、Cu系では擬縮退したpπ軌道とpdσ軌道の両方にモーメントを持つ反強磁性解が、とくに相互作用が大きい領域ではモット絶縁体的な状態が安定となることがわかった。
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