研究概要 |
近年、パイロクロア格子系磁性体Pr_2M_2O_7(M : Ir, Zr, Snなどの遷移金属)に対する研究は著しい進展遂げている。特に遍歴磁性体(M=Ir)では、Prイオンのf電子磁気モーメントが強い一軸異方性をもつにもかかわらず、40K以下の低温で近藤効果を示し、さらに低温1.5K以下ではゼロ磁場かつゼロ磁化で異常ホール効果を示すなど、理論的に容易に理解されない非自明な現象が観測されている。今年度は、この物質群におけるPrイオンのf電子磁気モーメントに対する有効量子模型を微視的に導出した。さらに、これらの系が示す極めて新しい電子状態を理解・記述する基礎理論を構築した。特に、水の固体状態である氷の結晶は幾何学的フラストレーションを有することが古くから知られているが、これと同じ機構のためにスピンが凍結した状態(スピンアイス)が、量子効果によって融解するというシナリオを提唱した。また、この新しい磁気状態がスピンのキラリティーを有する際に、巨視的スケールで時間反転対称性を自発的に破る。この状態はゼロ磁場での異常ホール効果と軌道磁化を伴う。この場合に観測されるべき異常ホール伝導度と軌道磁化を理論的に計算し、実験結果を説明することに成功した。これらの研究成果を英国科学誌Natureで発表した。さらに、上記の有効量子理論に基づいて、Prイオンの磁気モーメントが四重極秩序を示すことを示唆する計算結果を得るとともに、この新しい状態を中性子磁気散乱スペクトル等によって実験的に検証する方法を考案した。
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