研究概要 |
パイロクロア酸化物R_2M_2O_7(R:希土類元素、M:5d遷移金属元素)、特に、イリジウム酸化物(M=Ir)、希土類イオンの磁気モーメントに由来する磁性体について、それらが示す新しい非自明な量子相の理論的探究を行った。(1)Ir酸化物は、Ir 5d軌道に働く大きなスピン起動相互作用のために、トポロジカルバンド絶縁体やトポロジカルモット絶縁体を実現する可能性を秘めている。我々は、Ir酸化物に対する第一原理計算を行い、最大局在ワニエ関数を求め、有効単一軌道ハバード模型を導出した。さらに、動的平均場理論とハートレーフォック理論によって模型を解析し、この系は非自明なZ_2トポロジーは示さない一方、非自明なU(1)トポロジーを示しうることを見出した。(2)前年度に微視的理論手法により導出した、Pr系(R=Pr,M=Sn,Zr,Hf,Ir)の非クラマース磁気二重項に対する有効量子擬スピン-1/2模型の基底状態を、平均場近似および数値的解析によって、結合定数の広範な領域にわたり系統的に研究した。古典的な最近接スピンアイス模型から、量子揺らぎをもたらす異方的な交換相互作用を大きくしていくことによって、四重極モーメント秩序相やU(1)スピン液体相などの非自明な量子相が出現することが明らかになった。非自明な量子スピン揺らぎは、最近になって、Yb系(R=Yb,M=Ti,Sn)でも実験的に観測された。そこで、パイロクロア格子上のYbイオンのクラマース磁気二重項に対する有効量子模型を微視的に導出した。特に、強いクーロン相互作用・LS結合・結晶場の下での超交換相互作用を強結合展開から計算した。その結果、交換相互作用は容易面内で強磁性的であること、また、結合定数における磁気的U(1)対称性の破れが極めて大きいことが明らかになった。この異方的相互作用は、実験で観測されているカゴメ格子面内の強い相関をもたらす。
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