本研究では、スピン3重項超伝導体(Sr_2RuO_4)に微細加工を施した試料で輸送特性測定を行うことで、スピン3重項超伝導特有の内部自由度を反映した新奇な量子輸送現象の検出を目的とする。昨年度、我々はSr_2RuO_4-Ru共晶系の局所輸送特性に通常のジョセブソン接合では説明のつかない異常な電流一電圧特性が現れることを報告した。この異常の起源が超伝導の内部自由度、特に軌道の自由度であるカイラリティに由来したものであるかどうかの検証実験を進めてきた。また、スピン3重項超伝導体のスピンまたは軌道の内部自由度を使うことで理論的に予言されている半整数磁束量子の検出を目指し、Sr_2RuO_4自身で作製した超伝導量子干渉デバイス(SQUID)で、臨界電流の磁場変調測定からその存在の検証実験を開始した。 1. Sr_RuO_4-Ru共晶系における異常電流-電圧特性 試料の微細化を進めるはど、臨界電流密度が上昇していき、バルクと端が異なる臨界電流密度をもつと考えられる結果を得た。この結果から、試料の内部でカイラルp波、端でp。波の状態を担うと仮定すると、異常ヒステリシスが電流駆動によるカイラルドメイン壁の移動によって生じるとするモデルで理解することができる。さらに、異常ヒステリシスのバイアス電流方向(ab面に平行、垂直)、外部磁場の影響についても調べた結果、(1)電流の向きによらず、異常ヒステリシスは観測される。(2)磁場中冷却とゼロ磁場冷却の過程の差異が異常ヒステリシスに与える影響はない。ということが分かった。これらの実験結果もふまえて、統合的に異常ヒステリシスの起源を解明することが今後の課題である。 2. 半整数磁束量子の検出実験 Sr_2RuO_4のab面内に微細加工で"穴"をあけて作製したSQUIDで、臨界電流の磁場変調を測定したが、磁束量子Φo単位の周期変動も観測することができなかった。これは加工した試料の質に問題があったと考えられる。今後、新しくデバイス作製を行い、再測定を行う予定である。
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