ナヴィエ=ストークス方程式に基づく生物の飛翔や泳ぎの2次元理論を3次元に拡張するため、2次元理論で見られた空中停止のパラドックスが3次元空間で成立するかどうかを調べた。まずImai(1974)により提案された3次元流体中を運動する物体に働く力の公式と、時間周期的な流れの漸近挙動の表式を用いてはばたき飛行する生物に働く力の時間平均を求め、その力は遠方場の時間平均流で記述できることを示した。3次元空間における力の公式は2次元のものとは異なるが、この部分については2次元と同じであることを確認した。次に平均飛行速度をゼロに持っていった場合の力の時間平均の極限を調べた。この場合は2次元理論と異なり力の時間平均はゼロとならず、2次元理論におけるパラドックス(平均飛行速度がゼロになる極限で力の時間平均がゼロとなる)とは異なる。この原因については、2次元理論を発表した論文(M.Iima.J.Fluid Mech.(2008))で指摘した、極限におけるストークスのパラドックスとの関連により説明が可能である。 また、低レイノルズ数における推進問題に関しては昨年度開発した分子機械の流体力学モデルを拡張した。具体的には分子機械に簡単な内部構造を入れ、それが状態に応じて切り替わるというダイナミクスを組み込むことにより連続する緩和過程として実質的な遊泳を生み出すような運動を起こさせることに成功した。このモデルは切り替わる条件を変えることで変形周期を制御することが可能であり、また平均遊泳速度は極大値を持つ。 以上の研究成果を応用数学合同研究集会及び日本物理学会で発表した。また7月に独マックスプランク研究所に滞在し関連研究者との議論及び情報交換を行った。
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