昨年度に引き続き、ナヴィエ=ストークス方程式に基づく生物の飛翔や泳ぎの2次元理論を3次元に拡張する試みを行った。昨年度の結果により2次元理論で見られた空中停止のパラドックスは3次元では成立しないことがわかっている。本年度は次の段階として空中停止飛行の安定性について理論解析を試みた。そのため、昆虫の自由飛翔における重心運動を支配する運動方程式の外力項を、重心速度の関数として求めることを考えた。具体的には、Imai(1974)の公式と遠方場の流れ場の表式を活用し、重心速度(昆虫を固定した座標系で見ると一様流の大きさとなる)の関数として求める。その関数の性質より重心運動の力学的安定性を判定することができる。本年度の研究では遠方場の流れ場の一般的性質と安定性の関係を明らかにすることに成功し、幾つかの具体例を用いて安定性の判定を行った。 また、低レイノルズ数における推進問題に関しては、昨年度開発した内部構造の切り替わりにより駆動される分子機械の流体力学モデルの改訂を行った。このモデルでは内部構造の機構を工夫することで、平衡点と内部構造の関係が数学的に単純となり、挙動の制御がより簡単になっている。またモデルの性質を調べ、一周期あたりの移動距離を相空間で定義されるあるベクトル場の性質と関係付けることに成功した。またエネルギー効率についても考察を行った。 研究成果は日本流体力学会で発表を行い、また6月に独マックスプランク研究所に滞在し関連研究者との議論及び情報交換を行った。
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