平衡系における界面張力の物理的な記述についてはほぼ完成された理論があるが、非平衡系における界面の取り扱いについてはまだ確立されていない。そのような問題へのアプローチとして、界面活性をもつ物質の濃度勾配が引き起こすMarangoni対流や界面活性剤の輸送に着目しして研究を進めた。その結果、次に挙げるような成果が得られた。 (1)界面活性をもつフェナントロリンは硫酸鉄と反応し、フェロインという水溶性の物質になる。このフェナントロリンの粒を硫酸鉄水溶液に浮かべると、フェナントロリンが界面に溶け出し、界面張力を局所的に変化させることにより粒が運動する。その際、水溶液中の硫酸鉄と反応するが、硫酸鉄濃度により、等速で運動したり、間欠的に運動する現象が観察される。反応拡散方程式をもとに数理モデルを構築し、この現象のメカニズムを解明した。 (2)カチオン性界面活性剤の水溶液に、アニオン性界面活性剤を油に溶かした溶液を液滴として置くと、界面でこぶを作りながら、変形、運動する現象が観察される。この現象は、二種の界面活性剤がラメラ状の構造を界面で生成し、その構造が生成、破壊を繰り返すことにより起こることが明らかになった。 (3)セチルトリメチルアンモニウムブロマイドなどのカチオン性界面活性剤の水溶液中で塩化金酸を還元することにより、金のナノ~マイクロメートルスケールの棒状結晶(金ナノロッド)が生成することが知られている。この棒状結晶が成長している過程を途中で止め、形状を観察することにより、成長メカニズムについて考察した。
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