平衡系での界面張力の物理的な理解はほぼ完成されているが、非平衡系における界面の取り扱いについては未知な部分が多い。そこで、界面活性剤の濃度勾配が引き起こすMarangoni対流や物質輸送に着目して非平衡系における界面張力の特徴を理解するために研究を行い、次に挙げるような成果が得られた。 (1)樟脳粒を水面に固定するとその周りの水面に樟脳分子が拡散し、表面張力を低下させることによって、マランゴニ対流が発生することが知られている。そこで、水相にイオン性界面活性剤であるSDSを加えたときの対流挙動を観察した。その結果、SDSを加えるに従って対流構造が弱くなっていった。しかし、臨界ミセル濃度よりもさらに濃いSDS水溶液にすると、対流の強さが強くなってくる現象が見られた。これは、樟脳分子の拡散スピードとSDSミセル中への樟脳分子の取り込み、水面から水相へと溶解していくスピードの競合によるものと考えられる。 (2)系(液滴)の内部で自発的に発生するパターンがMarangoni効果を通して系自体の運動を生み出す機構を、液滴内外での流れが十分に遅いと仮定するStokes近似のもとで流体力学的に扱った。具体的には、任意の界面張力勾配を与えた液滴において、対流が生成し、その対流によりどのような運動が引き起こされるかについて解析した。また、この結果をBZ反応液滴の油中での運動の実験結果と比較して議論した。 (3)カチオン性界面活性剤の水溶液とアニオン性界面活性剤のテトラデカン(油)溶液を接触させると、界面が自発的に揺らぎ、またミリメートルスケールの界面活性剤複合体でできた柱を形成する。この柱を構成するミクロな構造を同定するため、マイクロビームによる小角X線散乱実験を行ったところ、複合体の柱は数十ナノメートルの繰り返し距離を持つ界面活性剤のラメラ状構造から成り、また、ラメラ状の構造の向きが、柱の位置によって異なることが明らかとなった。
|