研究概要 |
今年度は,主に下記のような基礎的数理手法の研究をおこなった. 1,化学反応系や生態系どを記述する確率過程に対して有効な解析手法であるDoi-Peliti法に関して研究をおこなった.Doi-Peliti法は生成・消滅演算子を用いることにより,マスター方程式と等価な式を導く方法である.この書き換えにより,物性理論で用いられるさまざまな数理的手法を応用できるようになる.特に,これまで主に発見的におこなわれていた確率過程における双対確率過程および双対関数の導出を,Doi-Peliti法を利用することにより自然に導けることを明らかにした.これは生成・消滅演算子による定式化と母関数法の等価性を利用することにして得られた.また,Doi-Peliti法におけるCole-Hopf変換についても研究を進め,大偏差関数を用いることにより粗視化されたLangevin方程式を導出できることなどを示した. 2,確率過程の動的振る舞いを記述するために有効な計数統計と呼ばれる手法に関して,経路積分を用いた定式化を導出した.具体例として2状態をもつ単純な確率過程を用い,結果として,解析力学における作用や変分原理といった概念と類似した数理的構造が見られることを明らかにした. 3,非平衡系において重要な役割を果たすことが知られている揺らぎの定理に関して研究をおこなった.これまで,確率過程における揺らぎの定理は可逆な経路を持つ過程に対してのみ導出されていた.しかし,例えば化学反応系は一般に不可逆な経路を持ち得る.ベイズの定理を用いることにより,確率過程における揺らぎの定理を非可逆な場合に一般化することに成功した.
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