研究概要 |
今年度は,下記のような,基礎的数理手法の研究および具体的な確率モデルに対する手法の適用をおこなった. 1.確率過程の動的振る舞いを記述するために有効な計数統計と呼ばれる手法に関して,新たな数値計算手法を提案した.この数値計算手法により,確率過程における遷移の回数を高次の揺らぎも含めて厳密に計算することが可能となる.モンテカルロ法による数値実験結果と比較することで,提案手法の有効性を確認した.また,計数統計は幾何学的位相と呼ばれる数理的枠組みと関連していることが知られている.これまで主に,周期的な摂動下での計数統計について研究がおこなわれてきた.その枠組みを非周期的な摂動下の場合に対して拡張することに成功した.本研究成果も含め,非平衡現象と,幾何学的位相という数理的枠組みとのつながりが少しずつ明らかになってきており,今後,非平衡系の研究に対する新しい切り口となることが期待される. 2.遺伝子制御系に対する確率モデルに対して,新しい近似的解析手法の提案をおこなった.遺伝子制御系の確率モデルについては,非常に簡単な場合にのみ解析解が知られていただけであった.複雑な制御系については,主にモンテカルロ法による数値実験を用いて研究するしか方法がなく,計算量爆発の問題を避けられない.提案手法において物性理論で知られている平均場近似に似た概念を導入することで,複雑な遺伝子制御系を解析的に扱う展望が拓けてきた.自己制御系や排他的制御スイッチ系に対してモンテカルロ法による数値実験をおこない,その結果と比較することにより,提案手法によって系の定性的な振る舞いが再現されることを確認した.
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