研究概要 |
熱伝導現象おける最も基本的な法則は、熱流が温度勾配に比例しその係数である熱伝導度が物質特有の値になることである。物質特有というのは、系のサイズに依ってしまったり熱浴の性質に依ったりしないということである。しかしながら、近年低次元熱伝導現象においては、一般的にフーリエ則が破れるという理論的予言と実験による検証がおこなわれた。これは非平衡統計力学における大きな話題の一つである。このテーマにおける最も重要な問題は、フーリエ則の破れにおける理論的なメカニズムを探ることである。本研究課題では、特に系の次元性に着目し研究を行った。考える系はフェルミーパスターウラム(FPU)系といわれる、調和的なバネと4次の非線形バネで最近接格子がつながれた系である。この系の左端と右端にランジェバンノイズにより熱浴を表現し定常状態の熱流を測定する。そのとき、熱流の系のサイズ依存性を大規模数値計算で調べた。その結果、熱伝導度は1,2次元では系のサイズに関してべき発散をするのに対し、3次元では収束していく様子が見れた。3次元での収束の様子は理論の計算とは異なる収束を示す。 また流れの平均だけでなく、流れの揺らぎの研究も非常に大事な研究テーマの一つである。我々は、流れの揺らぎを系統だてて調べるために、調和格子上での熱流揺らぎの情報をすべて内在するカレントキュムラント生成関数の一般公式を導出した。この公式は以前我々が導出した1次元量子系での公式で古典極限をとった表現を再現し、また3次元系での表現へと適用範囲を拡張するかなり一般的な公式である。この公式を用いて、正常輸送領域及び異常輸送領域の二つの領域で、カレント揺らぎの特徴を研究した。正常輸送領域では、カレント揺らぎの普遍的な振る舞いに関して、すでにいくつかの提案がなされている。例えばJona-Lashinioらは、流体力学的揺らぎ定理を使い時空間における揺らぎを総合的に記述する方法を提唱している。またDerridaらは相加原理といわれる原理を提唱し、熱伝導度と平衡系におけるカレント揺らぎ2つを用いて平衡から遠い系でのカレント揺らぎを記述するカレントキュムラント生成関数の形を提案している。これら2つはともに大事な概念であり、これからの非平衡物理を拡張する上での根幹をなし得る。我々は、我々が導出した調和格子上でのキュムラント生成関数の一般式を用いて、これら2つのうち特に相加性原理に関して、数値計算と解析計算を用いてその妥当性を調べた。その結果、正常輸送領域では確かに相加性原理が成立しているように見え、また驚くべきことに、異常輸送現象領域でもそれが成立しているように見える結果を得た。
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