有限の1次元量子系に振動外場を加えた模型を扱い、そのダイナミクスおよび輸送現象に関する研究を数値計算と理論解析により行った。前年度までに1~2粒子程度の量子ダイナミクスを研究してきたが、本年度はそれを多粒子系に拡張し、粒子間の相互作用よる複雑なダイナミクスを数値計算により示した。扱う模型を、1次元量子スピン模型の拡張とも言える1次元ハバード模型(スピンを持った1次元電子系)に変更し、実験による検証を提案しやすい設定にした。実際に、1次元ハバード模型は、光格子中の冷却原子の実験で実現可能である。本年度は特に、スーパーブロッホ振動と呼ばれる、静的な外場と時間周期的な外場中の量子波束の巨大な振動現象に注目し、その1粒子および複数粒子の量子ダイナミクスを研究した。この系の1粒子の場合のダイナミクスは、時間周期系に特有の擬エネルギーから実効的な平均群速度を計算することで、理論的に説明できる。複数粒子があり相互作用の強い場合には、2つの(同じ格子点の)粒子が束縛ペアを組み、それがペアで1つの粒子のように振る舞うことがある。しかし、束縛ペアのダイナミクスは、1粒子のものとは異なる。これは、単独粒子(1粒子)と束縛ペアとでは、エネルギー分散が異なることに由来する。複数粒子の場合に単独粒子と束縛ペアが混合している状態で、スーパーブロッホ振動を起こすような外場を加えると、実効的な平均群速度の違いから、量子波束が分裂と衝突を繰り返し起こすことを、数値計算で示した。また、束縛ペアの存在は、それが微量の成分であっても、ダイナミクスに多大な影響を与えることを明らかにした。
|