研究概要 |
本研究の目的は,量子論の際立つ特徴の中でも「量子コヒーレンス」と「量子観測」に焦点を当て,両者が本質的に関わり合う興味深い現象を追究することによって量子論の奥深い世界に追るとともに,それらを利用する独創的なアイデアを創出して量子情報技術に貢献することにある.実施3年度目の今年度は,主に以下の成果を得た. 1.ボース凝縮体など量子多体系の干渉現象に注目し,「対称性の自発的破れ」に基づく従来の記述に取って代わる理論的枠組みの構築を目指して,「観測による量子コヒーレンス」のアイデアを追究している.今年度は,両者の記述の違いが際立つ状況として,構成粒子数が少ないボース凝縮体の干渉の揺らぎを議論し,その成果を国内学会で発表した. 2.「量子-古典境界」の話題に取り組んだ.エンタングルメントをとらえることができる観測量(entanglement witness)と量子性をとらえることができる観測量(quantumness witness)の関係を追究し,前者は必ず後者でもあることを数学的に証明して,その成果を論文として発表した. 3.観測がその対象を乱してしまう効果をうまく利用することで量子系を制御しようという「観測による量子系制御」のアイデアを追究している.今年度,エルゴード写像や混合写像に関する新しい数学的定理を証明し,観測の繰り返しで量子系をエンタングル状態に導く新たなスキームを構成することに成功して,国際会議や国内研究会で発表した. 4.エンタングルメントを利用することで「量子状態推定」の糟度を向上できることを明らかにし,論文を発表した。 5.「量子系推定」の一般論を構築した.その成果は,Physical Review Letters誌に掲載された. 6.状態の初期化や多数回試行を必要としない「量子パラメータ推定」の独自の方法を2例構成することに成功し,国内学会,国内研究会にて発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「観測による量子状態生成」に関する話題で顕著な進展が見られている.その数学的基礎を支える強力な定理の証明に成功したことで,複数の興味深い例を構成することに成功し,研究の独自性を高めることができている.また,その数学的道具立てを応用することで「量子パラメータ推定」に関する新たなアイデアが生まれ,次なる研究展開の萌芽も見出せつつある.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる来年度は,本研究課題の3つの柱それぞれについて,次の点に力点を置いて研究を推進する、(1)「観測による量子コヒーレンス」に関しては,これまでのボース粒子系に関する議論を超え,フェルミ粒子系についても一定の知見を得ることを到達点とする.(2)「観測による量子系制御」に関しては,これまでに得られた知見の総まとめを行うとともに,それを応用する新たな方向性を探る.(3)「量子計測」に関しては,現在検討を進めている状態の初期化や多数回試行を必要としない「量子パラメータ推定」の独自の方法に関する一般論を確立するとともに,今年度構築した「量子系推定」に関する一般論を様々な具体例に適用してその有用性を明らかにする.これら一定の到達点を目指すとともに,次なる研究展開の萌芽を探る.
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