研究概要 |
本年度の大きな目標のひとつは,希土類ドープファイバーの不純物を極力減らして伸延性を高めた上でナノファイバー化を試みることであった.これはファイバー製造工程の見直しで実現できる可能性があり,ファイバー製造メーカーと慎重に協議を重ねてきた.しかし,製造過程の変更にコストがかかりすぎ,本研究予算では実現することが不可能という結論に達した. そこで当初の研究計画を多少変更し,ナノファイバーの周囲に漏れ出すエバネッセント光と気体分子を用いて非線形光-物質相互作用の観測を目指すことにした.まずは,波長1.5ミクロンのアセチレン分子をターゲットとして通常の(無添加の)シングルモードファイバーを用いてナノファイバーを製作した.さらにこれを真空容器内に設置してアセチレン分子の飽和吸収スペクトルを観測した.通常,アセチレンの遷移強度は非常に弱いため,飽和吸収を観測するためには光共振器や数100mW程度の高出力レーザー光源が必要となる.しかし本研究では,究極的に小さいモード断面積を持つナノファイバーの恩恵により10mW程度の半導体レーザーで飽和スペクトルの観測に成功している.この分光計は,今後重要性が増すことが予想される通信波長帯の光周波数標準に応用できる可能性があり,投稿論文及び国際会議に於いて発表を行った.さらに,より強い光学遷移を持つルビジウム原子をターゲットとして量子的相互作用を観測するべく,ルビジウム原子のレーザー冷却装置及び,超高真空チャンバーを製作した.すでにナノファイバーをこの真空中に導入することにも成功しており,今後ナノファイバー共振器を用いた量子光学実験が実現できると考えられる.
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