電子ビームの高輝度性能化は、線形型の次期放射光源計画のみならず、生体分子の観察や3次元構造解析が可能な次世代電子顕微鏡を実現の鍵となる技術要素である。電子スピン偏極は、国際線形加速器計画などの物質の根源への探索や磁性体のスピン偏極状態密度の観測に不可欠な電子ビーム源の性能である。 本研究では、従来技術を遥かに超える大電流可能な高い量子効率(入射光子数に対する放出電子数率)で、室温エネルギー(25meV)領域の極小熱運動の超高輝度性能を有し、かつ高い偏極度でスピン偏極した電子ビーム源の実現を目的とする。 これまでに電子源の高輝度化として提案している超格子半導体フォトカソードの結晶構造に対して、有効質量近似のクローニヒ・ペニーモデルによるバンド理論計算を用いて、高輝度化のみならずスピン偏極した電子生成が可能であることを見出した。そこで、これまでに開発した従来技術を遥かに超える10倍以上の長寿命化を実現したバルク状AlGaAs半導体フォトカソードの結晶構造を基に高輝度、高スピン偏極と高耐久の性能を兼ね備えたAlGaAs超格子半導体フォトカソードの結晶構造を設計した。このフォトカソードを名古屋大学ベンチャービジネスラボラトリーと共同で開発した。 更に、フォトカソードの性能評価を行うと共に電子顕微鏡などに実用化を目指した30keV電子銃を開発し、バルク状GaAs半導体フォトカソードを用いて、電子励起用ナノ秒パルスレーザーのパルス時間構造に応答したナノ秒の短パルスの電子ビーム生成に成功した。
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