現在、次世代の高エネルギー線形加速器、放射光源加速器や次世代電子顕微鏡において、高輝度や高スピン偏極度などの電子源の高性能化が実現の鍵となっている。このような次世代技術を実現する電子源として、輝度とスピン偏極性能に利点を持つ半導体フォトカソードは要求性能に応える利点を持つ。本研究では、フォトカソードの高輝度・高耐久化の独自アイデアとして提案している超格子半導体の最適結晶構造を追求し、放出電子の単色化と大電流引出しによる高輝度性能の実証を目的としている。 本研究では、高輝度・高耐久化のためのフォトカソード電子源として、これまで用いてきたAlGaAs半導体よりも大きなバンドギャップを持つp型GaN半導体に着目した。それはバンドギャップの大きなp型半導体が次の二つの利点を持つと考えたからである。(1)負電子親和力表面形成の際により大きく真空準位を下げることから、高耐久化させる利点を持つ。(2)電子を価電子帯から伝導帯へ励起する際の遷移確率を高くできるため、より高い量子効率が得られ、高輝度化に対しての利点を持つ。そこでこれらの利点を兼ね備える電子源としてInGaN-GaN超格子フォトカソードの開発を行った。 InGaN-GaN超格子フォトカソードを用いた量子効率スペクトラム測定から高輝度化条件であるバンドギャップ付近での量子閉じ込め効果を観測した。更にこの負電子親和力状態の機能性表面に対して、2気圧の窒素暴露を行ったところ、従来のGaAs半導体フォトカソードでは6ケタ以上量子効率性能が劣化するのに対して、InGaN-GaN超格子フォトカソードでは3ケタしか劣化しなかった。これらの結果から、InGaN-GaN超格子半導体がAIGaAs-GaAs超格子半導体と同様の高輝度化利点を持つだけでなく、電子源としての機能性表面が従来のGaAs半導体に比べて桁違いに強固であることを明らかにした。
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