当該年度は、タンパク質の機能発現に際する水の役割を解明するために、以下の事を行った。まず、タンパク質の機能は、タンパク質が外的刺激に対しておこなう一連の構造転移と化学反応によって理解できると考えられるので、タンパク質の構造転移とそれに際する水の役割を理解するための理論を構築した。具体的には、タンパク質が構造転移を起こす際に、タンパク質と周辺の水とのエネルギー収支を用いて、タンパク質の構造変化を、水が助けるもの、と、水が妨げるもの、の二種類に分類した。次に、その二種類の構造変化の分子論的な違いを考察するために、二種類の構造転移反応に際して、水がタンパク質の周辺にどのような集団的な場を作り出しているのかを、昨年度開発した水の集団的な流れの場を素視化するための手法およびLagrange協同構造を適用することにより解析するための理論を作成し、タンパク質と類似のペプチドに応用した。その結果、それら二種類の構造転移反応に対して、水が周辺に作り出す特徴的なパターンがあることが示唆された。具体的には、Lagrange協同構造の法線方向には反発的な力が働くのだが、水が助けている場合には、水はペプチドの構造変化を助けるように、ペプチドの構造変化の方向に法線方向を持つようなLagrange協同構造を作り出しているということをいくつかの例で確認した。また、水が妨げている場合には、ペプチドの構造変化の方向がLagrange協同構造の接線方向に向くように、Lagrange協同構造を作り出すということを確認した。これらの発見は、水がペプチドひいてはタンパク質の構造変化をどのように助けたり、妨げたりしているかに関する分子論的な理解を与えているものと考えられる。
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