今年度は水がペプチドの構造変化に単にノイズとしてだけではなく、積極的に反応に関与していることを解明した。具体的には、まず、水とペプチドの協同運動を抽出するためのアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは、Koopman演算子と呼ばれるものを水とペプチドの協同運動抽出に適するように改良したものである。Koopman演算子は、Liouville演算子の共役作用素であり、そのスペクトルおよび対応するモードは、水とペプチドの動力学に参与する自由度及びその時間スケールを与えるものである。具体的な改良点としては、二点あり、水とペプチドの運動を支配しているNewton方程式が時間反転可能な点を考慮して、時間とともに減衰するような協同運動モードの抽出を安定にできるようにした点とアルゴリズムにL^1最適化を取り入れることにより、ノイズの影響を低減した。この改良されたアルゴリズムを水とペプチドの動力学に適用した結果、抽出された協同運動モードのうち、ペプチドの構造転移運動に相当するモードは、ペプチドの自由度だけではなくて周辺の水の自由度も参与していることが明らかになった。このことは、ペプチドが構造転移する際に、周辺の水もその構造転移に積極的な役割をしているということを示唆している。このアルゴリズムは、ペプチド動態だけではなく、タンパク質にも応用可能であり、タンパク質が機能を発現する際に水がどのようにその機能を助けているのか、等の解明に役立つことが期待される。
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