申請者は、これまでに系の熱力学係数や運動論係数が密度、あるいは自由体積濃度などに顕著に依存する物質糸では、微小な剪断率の流れであっても、一様状態が容易に不安定化しうるというまったく新しい機構を提案し理論解析を進めてきた。従来、高分子溶液やライオトロピック液晶などのソフトマター系において、このような不安定化現象が発現することは"流動誘起相分離"の名でよく知られていたが、一見、なんら顕著な内部構造を有さないような単純液体系であっても、このような現象が予測されるという意味で重要である。また、共通するメカニズムは液体の普遍的な不安定化機構の存在を強く示唆する。 この不安定化機構は特に粘性の大きな液体系で広く成立すると考えており、これまで、この機構を粘弾性体やアモルファス固体の不安定化、破壊現象の理論的な記述に発展させるため、主に連続体レベルでの数理モデルの構築、及びその解析を通じて、研究を進めてきた。これら前年度までの研究成果の延長にあるものについては、日本物理学会誌上や様々な国際学会、研究集会などで積極的に公表を行ってきた。 さらに、このような連続体的なアプローチで見出される不安定化現象の背後にあるミクロなメカニズムについて理解を進めるべく、様々な見地から研究を進めてきた。具体的には、分子論レベルの輸送理論を援用した理論モデルの構築と分子動力学計算を用いたその検証であるが、これらについては現在論文の執筆を準備中である。
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