【過冷却液体の非局所粘弾性】 本研究では、前年度までに過冷却液体における輸送異常とその空間階層的な起源を明らかにするために、長さスケール(有限波数)の情報を残した粘性係数を3次元モデルガラス系(2成分ソフトコアポテンシャル系)の分子動力学計算によって詳細に調べてきた。本年度はさらに、その解析を複素弾性率、粘弾性緩和時間にまで拡張した。その結果、ガラス化に由来するプラトー弾性率には顕著な空間スケール依存性や温度依存性は見出せないが、粘弾性緩和時間には顕著なメソスコピック性が発現し、それはガラス転移点に向かって成長することを初めて系統的に明らかにした。現在、これらの結果をまとめた論文を投稿中である。 【変形下のガラス状物質の不安定化現象】 申請者は、これまでに系の熱力学係数や運動論係数が密度、あるいは自由体積濃度などに顕著に依存する物質系では、微小な剪断率の流れであっても、一様状態が容易に不安定化しうるという新しい機構を提案し理論解析を進めてきた。これまで、この機構を粘弾性体やアモルファス固体の不安定化、破壊現象の理論的な記述に発展させるため、主に連続体レベルでの数理モデルの構築、及びその解析を通じて、研究を進めてきた。本年度は、このような連続体的なアプローチに加え、不安定化現象の背後にあるミクロなメカニズムについて理解を進めてきた。分子論レベルの輸送理論を考慮したモデルの構築と分子動力学計算の援用による検証を行ってきた。 【ゲル化における流体力学的相互作用の効果】 ゲル化も広義の意味でガラス化に密接に関係した現象である。特にコロイド粒子系は、取り扱いが比較的容易であることから、従来、多くの実験やシミュレーションでゲル化の研究が行われてきた。しかし、ブラウン動力学などで予想されるよりも、はるかに低いコロイド濃度でゲル化が生じるなど、そのメカニズムについては十分な解明がなされていない。本研究では、流体力学的相互作用を適切に取り入れたシミュレーションにより以下の点を明らかにした:コロイド間の引力相互作用によって一様状態は不安定化し凝集化が引き起こされるが、溶媒の非圧縮性のため直接的(縦方向の流れによる)凝集は阻害され、回転、純粋剪断のような横方向の流れを伴う。その結果、コンパクトな凝集体の形成は困難となり、低濃度であっても空間的に広がった連結構造が自己組織化されることを初めて示した。
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