平成21年度は、分子マニピュレーターのアイデアを実現するために、光をポンプおよびプローブに用いた測定系を構築し、基本原理を実験的に実証した。(1)外場で液晶秩序を自在に空間変調する励起手法と(2)ゲスト分子の局所濃度を測定する検出手法を検討し、高分子を不純物分子とするモデル系を設計して分子マニピュレーターの原理を示すことに成功した。具体的には、(1)として、液晶秩序を空間変調する手法として可逆な光応答性を示すアゾベンゼン分子の形態変化を利用した。アゾベンゼンに紫外光を照射すると、棒状形状から屈曲形状に変化して近傍の液晶秩序を大きく乱すので、紫外光照射領域だけで液晶秩序(オーダーパラメータ)が低下することが期待できる。実際に、光を外場として用いることで、プローブ光の形状や位置を制御して、任意の形状・位置にゲスト分子を移動・捕集する可逆な測定系を構築した。(2)として、蛍光性ゲスト分子を用いることで、局所的なゲスト分子の濃度を各点での蛍光強度から見積もることを試みた。蛍光による濃度測定は他の手法に比較して感度が非常に高く、少量のゲスト分子を添加した系でも定量測定ができた。以上のモデル系で、オーダーパラメータの空間変化と蛍光強度の空間変化を同時に測定し比較することで、「液晶秩序の空間変化がゲスト分子の濃度変化を生み出す」という分子マニピュレーションの基本原理を実証した。液晶秩序の変化が生じない、等方液体相で紫外光を照射した場合やアゾベンゼンを含まないネマチック液晶相に照射した場合と比較することで、照射励起光とゲスト分子の直接的な相互作用は寄与しないことも確認した。
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