水はタンパク質の構造を安定化するだけでなく、ダイナミクスにも重要な役割を果たしている。そのため、タンパク質の機能発現機構を理解するためには、水和水のゆらぎを理解することが重要である。水和水のゆらぎは、タンパク質のトポロジーや隣接する側鎖の疎水・親水性等、周囲の環境に影響を受け、自由水から大きく変化すると考えられる。そこで、タンパク質が存在することで生じる環境の変化によって水和水のゆらぎがどのように変化するのか、特に水和水のスペクトルを明らかにすることを目的として本研究を実施した。 本年度は、昨年度に引き続き、テラヘルツ時間領域分光測定システムの構築を行った。差分検出を行うための検出回路を製作した。キャビティダンパーで繰返周波数を変化させながら、フォトディテクタからの信号をオシロスコープで確認した。その結果、40kHz以下の繰返周波数であれば測定が可能であることが分かった。また、水和させたタンパク質粉末のテラヘルツスペクトルから水和水のスペクトルを抽出することを試みた。異なる水和量のタンパク質粉末におけるテラヘルツスペクトルの比較から、タンパク質に強く結合した水分子は、自由水で観測されるような20GHzの緩和モードを持たないこと、水素結合に関係した高振動数領域の振動モードを示すことなどが明らかになった。今後、タンパク質水溶液のテラヘルツスペクトルとの比較を行うことで、水和水が持つ緩和モードの抽出を試みる予定である。
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