ガラス転移点近傍で普遍的に見られる遅い動力学について、液体論と分子動力学シミュレーションによって研究した。ガラスにおける動力学は時空間ともに不均一に発生していることがわかり、この動的不均一性とよばれる運動形態がガラス転移を引き起こすのではないかと考えられている。そこで動的不均一性の役割を知るために、その時空間構造を調べることが量重要課題となっている。液体論に基づけば密度場の2点相関関数を出発として解析が展開されてきたが、この2点相関関数は動的不均一性を平均化してしまうので解析するには適さない。そこでさらに高次の4点相関関数を用いる解析が提案され、現在国内外の研究者間で盛んに研究されている。ただし、時間に関しては1時間間隔しか解析されておらず多点相関を考慮する利点は半減されていたのが現状である。そこで、本研究では多点相関を多時間相関に拡張するフォーマリスムを提案し、分子シミュレーションで得られるガラス状態の長時間分子軌道を解析した。その結果、特に過冷却度が深い状態で、動的不均一性による分子軌道の相関は長時間にわたって保持されることがわかり、動的不均一性を特徴付ける時間スケールは2点相関関数によって決まるいわゆるα緩和時間を大幅に超えることを明らかにした。また、いくつかの実験結果も動的不均一性の時間スケールを決める試みがなされ同様の結果が得られており、定性的に両者に良い相関があることがわかった。
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