研究概要 |
主に海洋を起源とする脈動や,地震波の散乱によって生み出されるコーダ波などのランダムな波動場は,観測点間の相互相関をとることにより,地下構造やその時間変化を観測することができる.本年度は,この手法を用いて浅間山の地下構造およびその時間変化を求めることに成功した.まず最初に,2005年から2007年にかけて観測された脈動を用いて浅間山およびその周辺を伝わるレイリー波を抽出し,その伝搬速度から,浅間山周辺のS波速度構造を求め,浅間山西側深さ5-10kmに顕著な低速度領域を発見した.この低速度領域は,2004,2008-2009年の火山活動で貫入した岩脈(ダイク)および,過去に繰り返し貫入して冷え固まって作られたと思われるダイク,および2009年2月の噴火に同期して収縮したダイクの領域の下部に位置するため,マグマだまりを示すと思われる.マグマだまりの水平差し渡しは10km弱であり,地震学的にこのような小さなマグマだまりが見つかったのは初めてである.また,同手法により浅間山周辺の地震波速度構造の時間変化も見積った.浅間山周辺で発生した300個あまりの地震のコーダ波の相互相関をとることにより,観測点間の波動伝搬を抽出して速度変化を見積もった.その結果,2008年噴火に先立ち,約1.5%の速度減少があり,その速度減少が回復した後に噴火が発生したことが分かった.この速度減少および回復の期間は,地殻変動および地震観測により推定されるダイク貫入の時期よりも明らかに早く,この速度変化のメカニズムは今後検討が必要である.
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