本研究の目的は、高精度かつ高解像度のトモグラフィーモデルから、全地球の化学組成構造及び温度構造を制約することである。代表者の世界最先端のトモグラフィー手法を活用し、地球内部構造に関するほぼすべての地震学的パラメータを同時推定する。特に内部不連続面の性質(シャープネス・コントラスト)も未知パラメータとして推定することにより、化学組成構造に対する新たな情報源を作り出すことに主たる目的とする。本年度は、最終的な全地球姿モデル推定として、北西太平洋地域の微細速度構造推定を実施した。また得られた速度構造とマントル不連続面のトポグラフィーとの関係を明らかにした。本年度の具体的な成果は以下の通りである。(1)波形データの持つ情報を最大限活用するために、複数のフェーズが重なりあう波形を用いた内部構造推定手法を開発した。(2)開発した手法を中国東北部の稠密アレイデータに適用し、北西太平洋の沈み込み地域の微細構造を推定した。(3)米国の研究グループにより推定された微細な不連続面のトポグラフィーモデルと比較し、沈み込むスラブが660km不連続面に触れた地域にだけ、局所的な大きな不連続面の沈降があることを明らかにした。(4)これらの結果を勘案し、本沈み込み帯における温度構造や、沈み込みの履歴に関して考察を加えた。本年度で本研究計画は終了になるが、波形データに含まれる微細シグナルを抽出する手法を洗練化したこと、新たな手法を用いた微細構造推定を実施したこと、得られた微細構造と不連続面の性質の関係を明らかにしたことが主要な成果と言える。またこれらの一連の作業を行えば、全地球姿にせまれることも示唆できた。
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